2012年4月20日金曜日

松尾バイトの「zine学」入門 その3「出版って何ですか?」




こんばんは

前回は、ワークショップ復活でしたが、今日はまた講義に戻ります(^^。

あ、ちなみにこちらの「zine学」入門のコーナーでも、もうちょっとしたら実技を交えてお話しますのでお楽しみに。

さてさて、三回目の今日は「そもそも出版ってなんだ」ということに着目してみたいと思います。




第一回の講義でzineとは「自分の表現したいことを書く(描く)本に準じた形をしたもの」である、という簡単な定義づけをしたのですが、人間の歴史の中で「自分の表現したいことを書く」ということは比較的簡単にできても「本に準じた形で出版する」というのは、なかなか難しいことでした。

それはお金や手間がかかることだから、ということについては既に触れましたが、もうひとつ大事なことがあります。それは「出版、つまり個人の意見の公的な表明というのは、常に政治的な力に晒される」という点です。

戦争中の日本では検閲というものがあって、出版物は国がOKしたものでないと頒布することができなかったり、逆に戦争後にそれまでの教科書に墨を塗ることになったりした話はみなさんも聞いたことがあると思います。

もちろん、それより以前の江戸時代なんかは、内容については比較的自由なものが出版できたのですが、これも時代によって方向性が大きく変わるところですね。

ネットの世界でも、中国では検閲制度がありますし、日本でも2chを規制すべきか否かなど、このあたりは常に難しい問題をはらんでいます。

まあ、印刷物と政治が、常に大きな関わりあいを持っていることを知っておいて損はないでしょう。




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さて、そもそもグーテンベルクさん

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%8F%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AF

が活版印刷を発明したのは「聖書」を印刷するためでした。

日本最古の木版印刷である「百万塔陀羅尼」

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BE%E4%B8%87%E5%A1%94%E9%99%80%E7%BE%85%E5%B0%BC

も仏教のお経ですから、印刷と宗教というテーマも、密接に関係していると言えるでしょう。

とはいえ、古い時代における宗教は、それすなわち政治とリンクしていますので、やっぱり先の問題に立ち戻るような気もしますね(^^;


公的な出版物に政治的力が働くとすれば、私的な出版物はどうしてもそうした体制への「アンチ」な気風が流れることになります。

商業印刷物では「お話にならない」ような内容でも、zineであれば出版することができる、ということもそういう部分に通じています。

お金にならない話、まとまりのない話、個人的で公共の利益とは無関係なこと、成熟していない内容、ぶっちゃけ他人に無関係な話、・・・そういうものでもzineはOKだし、ブログにもそういうところがありますね。

ブログ等で言えば、やっぱり政治的に「僕はこう思う!」なんて意見を堂々と表明なさる方はたくさんいます。

公的出版と私的出版の比較は、面白いテーマをたくさん抱えているわけです。





というわけで、今日はある意味「究極のzine」について紹介します。究極、というのは今回はちょっぴり政治がテーマなので「発禁になった」という意味でのお話(^^


「サミズダート」という私的出版物を知っていますか?

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%9F%E3%82%BA%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%88


(ウィキペディアより画像引用 ポーランドの「サミズダート」はまるでzine)





これはソ連時代のロシアなどで発禁処分になった本を「手作りで複製して」検閲を逃れて「地下出版した」ものを指します。

もちろん、作ったのがバレたら捕まります。なので出版と言えども手製のコピーで、手渡しで広まってゆきます。

ゴルバチョフさんが「ペレストロイカ」するまでは、なんとすべての職場の印刷機やコピー機、タイプライタの印字記録をKGBが見張っていたというからすごいですね。

(だって、すべての企業が国営なので、そういうことができる)

そのKGBの目をすり抜けて、手製複製本を作る。これは、なかなか究極のzineです。前回複製のお話をしましたが、「複製技術」が成長したからこそ、こういうことも可能なわけです。

サミズダートの興味深いところは、印刷時だけでなくその流通方法にもあります。基本発禁本ですから、本屋さんで売るなんてとんでもない。流通に載せることすら不可能なので、信頼できる仲間と手渡しするしかないわけです。




zineも似たところがあって、ISBNコードなんてあるわけないので、手売り手渡しで、置いてもらう本屋さんを訪ね歩いたり、郵便で送ったりしなくてはなりません。

(まあ、検閲されずに郵便で送れるだけマシかも(笑))

というわけで、出版とは常に「自分の属する世界と戦う、世界と対峙して向き合う」ものなわけです。それが世界を変える力を持っているので、為政者も警戒しますし、逆に言えば、今のように自由にzineが作れるってことは、簡単に世界を変えるチャンスでもある、ってことなわけですよ。

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