2012年4月29日日曜日

松尾バイトの「zine学」入門 その5「本の歴史をたどってみよう(1)」



いよいよGWがはじまりましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?

zineやzine的なものについて真面目に考えるこのコーナー。今日からはズバリ「本」という形態について考えてみたいと思います。

そもそも、本や本っぽいものは人類が文字を発明してそれを何らかの「メディア」に記録するという意味で古い歴史を持っています。

学校で勉強したのは、「昔は骨とか粘土板に刻んだんだぜ」とか「ヨーロッパでは羊皮紙というものが使われたぜ」とか「エジプトにはパピルスという紙があるぜ」とか、そういうお話でしたね!

アジアでは「木簡」とか「竹簡」とかそういうものが使われた話も覚えているかと思います。



<忘れてしまった人は復習をどうぞ>

粘土板
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B2%98%E5%9C%9F%E6%9D%BF

羊皮紙
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%8A%E7%9A%AE%E7%B4%99

パピルス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%94%E3%83%AB%E3%82%B9

木簡
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8%E7%B0%A1




さて、それらの記録メディアが「本」になってゆくということは、単体のメディアをつなぎ合わせて長い分量のデータを記録する仕組みが発明される、ということでもあります。

たとえば、「小冊子」の「冊」という字は、ズバリ木簡を糸でつなぎ合わせた形をかたどった文字です。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Bamboo_book_-_binding_-_UCR.jpg

wikiに写真があったので、それを見れば一目瞭然!まさにおんなじ形です。




紙が発明されてからは、まずはその紙をつなぎ合わせて「巻物」というスタイルが登場します。

日本・海外とも長い間(18世紀ぐらいまで)巻物が使われており、いわゆる「本」は歴史の中でもどちらかといえば後発だと言えます。

現代でも巻物はちゃんと残っていて、たとえば「掛け軸」は、巻物を開いて掛けているものなので、しまうときは当然「巻物」にするわけです(^^



_________




さて、それではzine学講義はこれくらいにして、いよいよ実習しながら「本の歴史」をたどってゆきましょう!


<「折本」を体験する>

巻物は、ロール上のため検索にとても時間がかかります。そこで、それを解決するために、巻物と同じ構造でありながら途中でも開くことができる形態が生まれました。

それが「折本」です。




折本は巻物とおなじですから、ペラものの紙をつなぎ合わせるところからはじまります。今回はA4用紙を半分に切ってつないでみます。


つなぐと、長ーい紙になります。本来の巻物や折本だと、もっともっと長くなります。


これを折りあげると↑になります。これで1paperzineのサイズとまったくおなじ、ということになりますね。

折本には、最初と最後に丈夫な表紙をつけることがあります。いわゆるみなさんがイメージする「お経」みたいになるのがそれです。


開くと↑みたいな感じ。表面ばかり使うので裏面には何も記載しません。ということで「A4片面分の本」ですから1paperzineとデータ量はおんなじです。

はい!今回のポイント!

「折本は綴じてはいない」

ということ!

巻物や折本は、まだ「綴じる」という作業が入っていないので、そこが近代の「本」とはちょっと違う、というわけです。

次回は、「綴じる」という点に着目する予定。

ではでは。


2012年4月23日月曜日

最近の100均はすごいねえ。クラフトパンチを試し買い


こんばんは

いつも、100円ショップへいくと、「何か面白いものはないかな」とか「何か使えそうなものはないかな」と思いながら見て歩くのですが、今日はクラフトパンチを発見。



クラフトパンチとは、いわゆる2穴パンチみたいに穴をあける器具なんですが、その穴の形がいろいろな形状になっているものです。

ふつうはハート型とか星型とか、なにかひとつの形で切り抜くものが多いですね。今日見つけたのは、ライン状に切り抜けるものです(^^

このクラフトパンチの使い方は2つあります。

一つは地の紙に形を切り抜く使い方。もう一つは、切り抜いた形のものをたくさんつくる使い方です。

上の写真の場合は、紙をクローバー型に抜くこともできるし、ちっちゃいクローバー型の紙ふぶきみたいなのをたくさん作ることもできる、というわけです。

というわけで、zine作りに使ったらどうなるのかを実験。





表紙に白い紙、その下に緑の色紙を配置してみました。

なるほどこんな感じになるのね!残念ながら私は男子なので、こんな可愛いzineを作ることはあまりないでしょうが(笑)

いろんな使い方ができそうです(^^ 見つけたらぜひ一度買ってみてくださいね。

2012年4月22日日曜日

松尾バイトの「zine学」入門 その4「めくるめく同人誌の世界」




おはようございます。

たまには日曜日の朝から更新しております。




さて、「zine学」のコーナーは第4回を迎え、今日は「同人誌」について講義してみましょう(^^

21世紀の現代の日本において「同人誌」ということばは、ほぼ9割がた「アニメ・漫画同人誌」を指すことが多くなってきたように思います。

一般的に販売されているメジャーな漫画から画風やキャラクターを引用した二次創作物から、オリジナルのマンガに至るまで、そりゃもう「同人誌マンガ」は隆盛をきわめているようで。
東京秋葉原や大阪日本橋へ行けば、アニメ同人誌の専門店なんかもあって、ネット通販やコミケでの販売を含めてものすごい巨大市場になっているのがこの世界。

詳しいことはウィキペディアにも載っているので、ご一読をお勧めします(笑)←丸投げ?

同人誌
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8C%E4%BA%BA%E8%AA%8C





もちろん、zineも同人誌のいちジャンル、としてとらえてよいと思います。出版社による商業的な出版物以外は、基本的に同人誌の要素を含みます。

しかし、この「同人誌」というものは、由緒正しい歴史を持っていることも知っていて損はありません。
30代半ばのわたくしとしては、今のようにアニメ同人誌が流行する以前から生きてますので(笑)、同人誌といえば「アララギ」とか「白樺」とか、明治以降の文芸同人誌のほうが先にイメージに浮かぶような気もします(^^;

wikiにもこのへんのことは説明してありますが、日本の歴史においては、明治に近代国家になってからというもの、文学の世界では商業出版より先に「同人誌」という形態で優れた文学がたくさん世に出ることになりました。

むしろ商業出版はその後追いをしていたような形で、そのせいか文学が好きな人の中には、「同人誌」の形態に一目置く人がたくさんいるように思います。

高校に文芸部という部活動がある学校もたくさんありますが、ここでは自分の部活内で「同人誌(文芸部誌)」を作ることがひとつの柱になっていることも多いようです。



_______




文学や芸術の純粋な表現として、同人誌や自費出版の形態が適しているのは「商業主義に毒されない」という点だと思います。基本的に自己資金(ひとりであれ、グループであれ)で制作しますから、お金の出所は自分です。これが商業出版のようにお金の出所を読み手に求めるようになると、やはり「読者にウケるもの」「大衆にウケるもの」へと中身が変化していかざるを得ないわけです。

このあたりは、フリーペーパーの世界も面白いですね。無料で配布されるフリペには、まったく異質な2種類のものがあって、ひとつは「制作者が資財をなげうって自分の作りたいものを作るもの」と「広告をたくさんとってきて、読者と広告主の意図に沿ったものを」がどちらもフリーペーパーと呼ばれているのが興味深いです。

ただ無料という共通点だけなのですが、中身はまったく異なるものですね。



_______




さて、ちょっと戻ってマンガ同人誌の世界は、zineにくらべて数段進んでいますので、ぜひセンパイとして見習っておきましょう。

たとえば、クオリティを求めてマンガ同人誌は早くから「印刷会社に印刷製本をお願いする」というスタイルが定着しています。単なるコピー本もありますが、大半は既に本格的な印刷で発表されています。

専門書店やネット通販などの流通システムも整備されているし、コミックマーケットというイベントも定着して久しいものになりましたね。オークションや古書店で売る、といった二次販売もはじまっています。

また、パロディがどこまで許されるか、著作権の問題、商用フォントの利用など、zineでこれから生じてきそうな課題についてもほとんどがマンガ同人誌の世界で既に問題点が浮かび上がっていると言えます。

というわけで、zineの未来像を考えるなかで、ヒントをみつけたいなあ、と思ったら、ちょっと自分のテーマとは関係ないかもしれませんがマンガ同人誌のサイトをちら見するとヒントが見つかることもあるでしょう(^^

2012年4月20日金曜日

新企画「スマートほん」プロジェクトがスタートします!!

みなさんおはこんばんちは。

かねてよりツイッターなどでほんのりとつぶやいていた新企画

 ”スマートほん”


プロジェクトがいよいよ本格始動です。

とりあえず、私ひとりで始めていますが、なんとzine部のみなさまには先行予約発表中ですので、おそらくじわじわと「スマほ」の輪が広がることと期待しております(^^;




すべては↑このzineからスタートします。

拙著「スマートほんをはじめよう!」は、現在zine部の「1paperZINE」交換と連動して頒布中です。

というわけで、このzineの入手方法を発表。



<方法1>
 ZINE部の方は、わたくし松尾バイトと「1paperZINE」を交換していただくと、自動的に上記新プロジェクトの「ZINE」がついてきます。
 もちろん、1paperZINEも一緒に入っていますので、より楽しめること間違いなし。


<方法2>
 ZINE部以外の方で、何がしかのZINEやフリーペーパー・リトルプレスなどの発行者・製作者の方は、なんでもいいのでご自身が企画・制作なさっているZINE等を一冊送ってください。自動的に、「スマートほんをはじめよう」を含めて、当方で制作しているものを交換でお送りします。


<方法3>
 方法1・2に該当しない方で、「スマートほん」に興味がある方は、わたくしまでメールでご連絡くださいませ。折り返し入手方法をお知らせいたします。


すべてのご連絡先は、ツィッターの @byte_matsuo もしくは byte_matsuo@yahoo.co.jp までお願いします。

松尾バイトの「zine学」入門 その3「出版って何ですか?」




こんばんは

前回は、ワークショップ復活でしたが、今日はまた講義に戻ります(^^。

あ、ちなみにこちらの「zine学」入門のコーナーでも、もうちょっとしたら実技を交えてお話しますのでお楽しみに。

さてさて、三回目の今日は「そもそも出版ってなんだ」ということに着目してみたいと思います。




第一回の講義でzineとは「自分の表現したいことを書く(描く)本に準じた形をしたもの」である、という簡単な定義づけをしたのですが、人間の歴史の中で「自分の表現したいことを書く」ということは比較的簡単にできても「本に準じた形で出版する」というのは、なかなか難しいことでした。

それはお金や手間がかかることだから、ということについては既に触れましたが、もうひとつ大事なことがあります。それは「出版、つまり個人の意見の公的な表明というのは、常に政治的な力に晒される」という点です。

戦争中の日本では検閲というものがあって、出版物は国がOKしたものでないと頒布することができなかったり、逆に戦争後にそれまでの教科書に墨を塗ることになったりした話はみなさんも聞いたことがあると思います。

もちろん、それより以前の江戸時代なんかは、内容については比較的自由なものが出版できたのですが、これも時代によって方向性が大きく変わるところですね。

ネットの世界でも、中国では検閲制度がありますし、日本でも2chを規制すべきか否かなど、このあたりは常に難しい問題をはらんでいます。

まあ、印刷物と政治が、常に大きな関わりあいを持っていることを知っておいて損はないでしょう。




_____




さて、そもそもグーテンベルクさん

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%8F%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AF

が活版印刷を発明したのは「聖書」を印刷するためでした。

日本最古の木版印刷である「百万塔陀羅尼」

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BE%E4%B8%87%E5%A1%94%E9%99%80%E7%BE%85%E5%B0%BC

も仏教のお経ですから、印刷と宗教というテーマも、密接に関係していると言えるでしょう。

とはいえ、古い時代における宗教は、それすなわち政治とリンクしていますので、やっぱり先の問題に立ち戻るような気もしますね(^^;


公的な出版物に政治的力が働くとすれば、私的な出版物はどうしてもそうした体制への「アンチ」な気風が流れることになります。

商業印刷物では「お話にならない」ような内容でも、zineであれば出版することができる、ということもそういう部分に通じています。

お金にならない話、まとまりのない話、個人的で公共の利益とは無関係なこと、成熟していない内容、ぶっちゃけ他人に無関係な話、・・・そういうものでもzineはOKだし、ブログにもそういうところがありますね。

ブログ等で言えば、やっぱり政治的に「僕はこう思う!」なんて意見を堂々と表明なさる方はたくさんいます。

公的出版と私的出版の比較は、面白いテーマをたくさん抱えているわけです。





というわけで、今日はある意味「究極のzine」について紹介します。究極、というのは今回はちょっぴり政治がテーマなので「発禁になった」という意味でのお話(^^


「サミズダート」という私的出版物を知っていますか?

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%9F%E3%82%BA%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%88


(ウィキペディアより画像引用 ポーランドの「サミズダート」はまるでzine)





これはソ連時代のロシアなどで発禁処分になった本を「手作りで複製して」検閲を逃れて「地下出版した」ものを指します。

もちろん、作ったのがバレたら捕まります。なので出版と言えども手製のコピーで、手渡しで広まってゆきます。

ゴルバチョフさんが「ペレストロイカ」するまでは、なんとすべての職場の印刷機やコピー機、タイプライタの印字記録をKGBが見張っていたというからすごいですね。

(だって、すべての企業が国営なので、そういうことができる)

そのKGBの目をすり抜けて、手製複製本を作る。これは、なかなか究極のzineです。前回複製のお話をしましたが、「複製技術」が成長したからこそ、こういうことも可能なわけです。

サミズダートの興味深いところは、印刷時だけでなくその流通方法にもあります。基本発禁本ですから、本屋さんで売るなんてとんでもない。流通に載せることすら不可能なので、信頼できる仲間と手渡しするしかないわけです。




zineも似たところがあって、ISBNコードなんてあるわけないので、手売り手渡しで、置いてもらう本屋さんを訪ね歩いたり、郵便で送ったりしなくてはなりません。

(まあ、検閲されずに郵便で送れるだけマシかも(笑))

というわけで、出版とは常に「自分の属する世界と戦う、世界と対峙して向き合う」ものなわけです。それが世界を変える力を持っているので、為政者も警戒しますし、逆に言えば、今のように自由にzineが作れるってことは、簡単に世界を変えるチャンスでもある、ってことなわけですよ。

2012年4月19日木曜日

「はじめてのzine」ワークショップ第十三回 『横置きzineを作る』の巻

こんばんは

ここのところ「zine学」の講義の方に注力していましたが、いよいよzine部の「1paperZINE」も出揃い始めましたので、ちょびっとだけワークショップに戻ります。

締め切り延長で、かなりたくさんの1paperzineがお披露目されていますが、私も交換の準備を進めています。今日のワークショップが終われば、今回作る横zineも同封してお送りしますので交換希望の方は今しばらくお待ちくださいね!

さて、ワークショップの件ですが、このたびのzine部さんの「できたよ」掲示板を見ていると、

http://zineclub.bbs.fc2.com/

タイトルを「横置き」で作られている方が何人かいました(^^

横置き、というのは、長方形の紙の長い方向を横においた形で、四角が横に広い方向です。

ふつうの本は、たいていが縦置きスタイルなのですが、画集や絵本などの一部に横置きのものがあります。ハンディなスケッチブックの多くも横置きですね(^^


<ワークショップ> 「横置き1paperZINE」を作ろう!!



はい!というわけで、横置きzineの実物です。ごらんのとおり横に広い形です。


これまで練習してきた1paperzineでも、タイトルだけこの方向で置く事は簡単にできるのですが、さてこのまま横開きで本にするにはどうしたらいいでしょうか?



(^^; まあ、構造そのものはこれまでのものと全く同じなので、ちょっと頭をひねればすぐわかりますね!


答えは↑のように配置すればいいのです。

ただ、この横置きzineには注意点がいくつかあります。

①A4を8つ折したふつうの1paperZINEとおなじサイズのzineを作ろうとした場合、A3用紙を縦半分に切った紙が必要になる。

②つまり、プリンタで印刷する場合はA3プリンタが必要になる。A4で作ると、ふつうの1paperzineの半分のサイズになってしまう。

③A3用紙に配置したとき、半分の紙が無駄になってしまうので、1枚のA3用紙から2冊作れるように同じデータを配置したほうが効率的。

④A3コピー機で作る場合は、原稿を2セットコピーできるようにしておくと良い。


つまり、横置きzineは、横方向にべろんと長い紙が必要になるので、それに応じた準備がいる、ということです(^^

それだけ押さえておけば、あとは基本どおりです。

いつものように練習用データを用意しました。


↑クリックすると大きくなります。


ぜひ一度おためしあれ。

2012年4月17日火曜日

松尾バイトの「zine学」入門 その2「アナログなものを求めるこころ」



みなさんこんばんは



Zineとzineっぽいものにまつわるいろんなお話を進めている「zine学入門」のコーナーですが、今日は手作りの本の「良さ」の理由を考察してゆきます。

インターネットが広まって、世界はデジタルで満たされていますが、zine好きな人は、もともとから「本そのもの」や「紙そのもの」が好きだ、という方が多いように思います。

なので、デジタルばりばりのDTPで制作されたzineやリトルプレスもいいけれど、手描き感のあるアナログなものもいいなあ、とどこかで思っていらっしゃる人も多いのではないでしょうか?

出版社などを介さない「手作りの本」であるzineの良さ・魅力とアナログなものを求めるこころはどこかで繋がっていて、そしてそう感じるのにはちゃんと理由がある、というのが今回の講義のポイントです。





芸術論や情報科学の分野で、避けては通れない評論の傑作に
ヴァルター・ベンヤミン(1892-1940)さん

の「複製技術時代の芸術」という有名なものがあります。

タイトルを見ればなんとなく、話の筋が見えてきそうな感じがしますが、そう!現代は複製されたもので溢れているよね、というところが導入部分。

デジタル一辺倒の現代においては、目の前にあるすべてのデータが複製品だといっても過言ではありません。あなたの目の前のモニターに「唯一無二のオリジナル」が映し出されることなんて絶対になく、それらはすべてコピーに過ぎません。

さすがにベンヤミンさんの時代には、デジタル複製品はまだ登場していませんが、絵画にしても出版にしても写真にしても、それまで「オリジナル」しかなかったものが、にわかに「複製品」として大量簡単に出回るようになったことに対しての様々な気持ちが沸き起こったのは想像に難くありません。

ベンヤミンさんは、「優れた芸術に対する畏怖や崇敬の感覚」というものを「アウラ」という言葉で説きました。ざっくり言えば、オーラです。

すごい芸術には、オーラがあるよね。でも、それを複製して載せた本や、その絵を写した写真には、オーラがないんだよ。

という話です(笑)




つまり、私たちがデジタルデータよりも本、それも手作り本に対して何かを感じるのはこの「アウラ」みたいなものがそこにあるから、というわけです。

作り手から直に発せられたオリジナルに近い何か、(たとえそれが量産されたzineであっても)それがモノから伝わってくる、という感じでしょうか(^^

絵画が好きな人は、有名な絵描きさんの「版画」のようなものを見たり買ったりなさったことがあるかもしれませんが、もちろん「原画」には価値があり、そして、その版画にも「15/300」のようなナンバリングが施されているのをご存知だと思います。

複製品であっても、そこに「なんらかの唯一無二の絶対性のかけらを見出したい」というのは、人の根源的な欲求なのかもしれません。





そこで、zineの作り手たちは「あの手この手」でそのzineに「アウラ」を込めようと頑張ります。

表紙に他ではあまり手に入らない紙を使ってみるとか、印刷技法にこだわるとか、手彫りの消しゴムはんこを利用するとか、おまけをつけるとか、マスキングテープを貼るとか・・・。

そこにモノが確かに存在している、というリアリティを込めてzineは制作されます。

「zineで手に入れてもいいし、別にPDFでもいいよ。どっちでも」

という作り方は、もしかしたらあまり好まれないかもしれません(笑)






ゲイツとジョブズが切り開いたデジタルが支配する世界は、ベンヤミンが予見した、まさに「アウラが喪失した世界」です。

スマートフォンと電子書籍が日本市場で花開くこの2011年~2012年に、ちょびっと草の根なカルチャーとしてzine文化も同じく流行しているのは、実は関係のある事象だと言えるでしょう。

電子書籍とzineは、アウラを巡るそれぞれが「アンチテーゼとしての戦い」でもあるわけです(^^

2012年4月13日金曜日

松尾バイトの「zine学」入門 その1「古代のzineを見てみよう」



こんばんは

本家zine部での「部活動」である「1paperzineを作ろう!」がどんどん進行中ですね(^^

私はとりあえず締め切りに間に合ったので(笑)、こちらのブログも再開モードです。

ワークショップもまだまだネタはあるのですが、「作る」方は、部活動にゆだねるとして、ここからしばらくは座学ということにしましょう(^^

というわけで、zineとzineをとりまくいろんなことを一緒に勉強?する「zine学入門」が今回からしばらく続きます!





<講義1>「古代のzineを見てみよう」

zineとは、そもそも何なんだ!という壮大なテーマを投げかけてしまいますが、さて、みなさんにとってのzineって一体なんでしょう?

zineの歴史がどうとか、同人誌とかミニコミとか、ファンジンとか、そういうことは一旦脇に置いておいて、zineってどういうモノだと思いますか?

私は、簡潔に言えば「自分の表現したいことを書く(描く)本に準じた形をしたもの」だと思っています。

表現したいことが映像であったり、音楽であったりする人もたくさんいると思いますが、とりあえずzineでは「写真とか絵とかことばとか」いちおう本の形で表現できるものが中心になっているのはご承知のとおり。

そして、本である以上「読み手」が存在するのも大事なポイントですね。

つまり、zineは「自分が誰かに何かを伝える本」だと思ってよいと思います。





そんな「あたりまえのこと」をナゼいまさら書いているかというと、実はこのことがzineを学ぶ上でとても大事なことだからです。

というのも、人類の歴史においては「文字を書く・読む」ということはずっと一部の特権階級にしかできない特殊なことであったし、また「誰かにそれを伝える」ということも、とても難しいことだったというのは、みなさんもどこかで学んだことがあると思います。

すっごく昔むかしには、文字は神様の占いを記録するためのツールで、神官が公的に扱うものでした。骨に刻んだのがいっちばん最初の「本」っぽいものかもしれません(^^;

それから、木簡に文書を残すようになったり、和紙に書いたりするようになったり、いろいろ進歩はしますが、「個人が自分の表現したいことを書いて広める」なんてことは、まだまだずっと未来のお話になります。

なにせ、文字を学ぶのもたいへんで、紙などの書きつけるものを持つにも、ものすごいお金や労力がかかる時代が長く続くことになるわけですから!






さて、そんなわけでzineのことを思い返してみましょう。

いち個人が「あ、あたしも本を作れるんだ」とか「あ、僕もzineを作って、みんなに読んでもらいたい」なんてことを思い付けるようになったのは、変な話ですが、つい最近のことですよね?

それまででも個人で出版したりすることは可能でしたが、自費出版なんかでもやっぱりかなりのお金がかかったり、労力もたくさんかかっていたのは、これまたご承知のとおり。

つまり、みなさんがzineを作れるようになったというのは、人類の歴史においても実はかなりすごいことで、もしかしたらこの21世紀は、新しい時代の幕開けなのかもしれません(笑)




________





さて、日本の歴史の中で、もっともzineっぽいことを最初にやってのけたのは誰でしょうか?(^^

「自分の書きたいことを書き、誰かに読んでもらう」という本っぽいものを自分の力で作ったのは、きっとおそらく紫式部さんではないでしょうか(笑)
世界最古の長編小説、なんていわれるくらいですから、公的記録ではない「自己表現」として「源氏物語」は最初のzineっぽいもの、といっても過言ではありません(笑)

源氏物語のzineらしいところは、「宮中の女性たちに回し読みされて、複写された」という点でもそうだと思います。

読み手あってのzineですから、日記のように個人の記録というわけでもありません。理想的な「交換」とは言わないまでも、いろんな人の手に渡ってこそのzineであることは、現代でもちっとも変わりませんよね。

紫式部のような平安期の女流文学は、ひらがなで書かれていることもポイントです。当時は男性社会で、正式な記録は漢文で書かれていたのに対して、「ひらがな」は私的で自由のシンボルのような文字でした。

紀貫之が女性の真似をしてひらがなで「土佐日記」を書いたのも有名なおはなしです。




さしずめ当時の「ひらがな」は

「公式なアドビ製品じゃなくて、フリーソフトのGIMPでzineを作るぜ」
とか
「モリサワのフォントはお金かかるから、フリーフォントをつかうぜ」
って感じでしょうか?ワイルドだろ?(笑)





こんな風にみてゆくと、zineの考え方や、文学のあり方の歴史なんかがちゃんとリンクしているのがわかると思います。


自由な自己表現ができるようになったzineの力をどう生かすかは、みなさん次第です。もしかしたら、千年あとに「源氏物語」に匹敵するようなzineが登場するかもしれないのですから!!

2012年4月12日木曜日

1paperzine 2種できました 8Pの折本

こんばんは

zine部の活動が本格的にスタートして、まず部員のみなさんに「1paperzine」を作ってもらおう!という企画が始まっているところです。

というわけで、私もzine作りを始めていたのですが、ちょっとばかり時間がかかっていました(^^;

しめきりに近くなってようやく完成したので、本日報告したばかりです。

http://zineclub.bbs.fc2.com/




イメージ 1

↑ できたのはこんな「1paperZINE」

ひとつめは自己紹介zineなので、これまで私がかじってきた活動について、ちょこちょこっと書いています。

もうひとつは、生け花を額に入れて表現するという、友人の華道家と一緒にすすめているプロジェクトの紹介です。



あ、っというまに4月に入ってしまいました。zine部の活動もさることながら、新しいzineの構想を早く実物にしないとダメですね(^^;

がんばります~。