2019年9月1日日曜日

ビクセン スペースアイは、哲学的名機である!



 みなさんこんにちは。



 初心者向け、チープな天体望遠鏡の沼地にはまり込んで大変なことになっている松尾バイトです。そもそも、こどもと一緒に星を見ようということで、望遠鏡に十数年ぶりに興味を持ってしまったのが運のつき、もはや抜け出せそうにありません。

  こどもの時に父親らとともに国鉄アパートの屋上で天体望遠鏡を覗いた小学生時代を思い出しながら、今はこどもたちと楽しんでおります。


 さて、そんな中で、いわゆる初心者向け望遠鏡や、チープなモデル、古いモデルなどに興味しんしんになってしまっている松尾ですが、今日は声を大にして言いたいことがあります。


 ビクセン スペースアイ600/700は名機である!


と。

 この2機種。実はビクセンさんの中ではごくごく入門編扱いで、正規のカタログやらネットの解説には載っていないモデルなのですが、それでもすごい!!

 私はビクセンさんの回し者ではまったくありませんが、この機種の構成と設計を見るだけで、ビクセンという会社がどのような哲学を持ってこれを市場に投入しているのかがよくわかるので、そんなお話をしてみましょう。


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 と、その前に、「初心者向け、入門者向け天体望遠鏡とは何が求められていて、どんな機種がいいのか」ということを考えるよい記事があるので、そちらを先に読んでいただければ嬉しいです。


天文リフレクションズ 1万円で買える天体望遠鏡 ランキング (全4回)
http://reflexions.jp/tenref/navi/goods/telescope/4472/


 この記事は大変に実証的で面白く、「どんな天体望遠鏡が入門者にとってふさわしいのか」についてわかりやすく書かれています。

 1万円前後で市販されている4機種が徹底レビューされていて、 仕様なども細かく比較されているので、私も何度も読み返してしまいます。


 さて、記事においての順位は

 1 スコープテック ラプトル50
 2 レイメイ藤井 RXA103
 3 ビクセン スペースアイ600
 4 ミード AZM50

という結果になっていました。わたくし松尾も、これはこれでとくに異論があるわけではありません。価格と内容のバランス、ラプトル50の実力などを総合的に加味して、こういう順位もアリでしょう。


 ところが、かなりとてもすばらしく良記事であるところの天リフさんの記事においても、スペースアイのすごいところが見えていない部分があることに、わたくし松尾最近気づきはじめてしまいました。


 それは一体どういうことかというと、古い初心者用鏡筒にハマって、いろいろ比較しているうちに気づいた


「ビクセンの哲学」


についてでした。


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 ”しょぼい”天体望遠鏡マニア の道を歩みはじめると、いくつかの古典的名機を触ることになります。

 たとえば


■ コルキット スピカ


とか


■ 星の手帖社の組立天体望遠鏡


とかの、自作系望遠鏡や、スコープテック ラプトルやその元になった「大一光学製品」などです。

 こうした古典的名機と比較して、ビクセンのスペースアイは、まったく異なるアプローチをしようとしていることがわかります。それは、スペースアイ600/700の前機種である「スペースアイ50M/70M」にも、関わりがあります。



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 結論から言えば、ラプトル50やコルキットスピカというのは

 「コストをかけないで、主に日本製の丁寧な仕事をしている部品を使って、古典的教科書どおりの望遠鏡をお届けする」


というものです。もちろん、細かな改良は施されていますが、「日本製部品を多用することで、よく見える望遠鏡を提供するのだけれど、ただし、なるべく安い部品を使ってコストダウンをはかり、最終価格を安くする」ことが目的であって、そのため基本設計は1980年代ごろからまったく変わっていないということが特徴です。


■ スコープテック ラプトルと同型、あるいは兄弟機は1980年ごろの大一光学機そのものである。

■ ラプトルとコルキットに採用されている天頂ミラー・接眼レンズアイピースなどは、共通部材で、製造メーカーはおなじと思われる。

■ 80年代、90年代の大一光学品にも、おなじ部材がよく使われている。

■ そのため24.5mm径の(ツァイスサイズ)の部材ばかりが多用されている。

■ 旧来のビクセンをはじめ、OEMで数多くのメーカーから出ていた入門機も共通なものが多い。ミリオン光学、ユニックスなど、冠の違う兄弟機、兄弟部材がたくさん販売されていた。


 これらの「枯れた」かつ、「大量供給されている部材」の上に乗っかりながら、現代においてもお値打ちに供給できることは、とても大事なことで、すばらしいことだと思います。


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 ところが、ビクセンのスペースアイは、これとは真逆のアプローチで製品づくりがされています。


 スコープテックやコルキットが

「日本製部材の中で、枯れた最安値のものをチョイスして構成する」

方式を取っているとします。

 ミードやレイメイ藤井は、「中国製品・部材をうまく取り入れながら、基本的な構成で安く仕上げる」方式を取っています。


 とすると、ビクセンは

 「最新、最高の機構を、中国製造によって安価に仕上げる」方式なのです。

 中国製部材が多様されていますから、時として枯れた日本製部材に負けているような印象を与える場面があるかもしれません。

(スペースアイの鏡筒は、おそらく単体ではラプトルに負けるかもしれません)

 しかし、そこに流れている哲学は、かなりすごいです。シビレます。




  <哲学1> ツァイスサイズを捨てて、31.7mmアメリカンサイズに切り替えている。

 他社の入門機がまだ「24.5mmツァイスサイズ」の部材を多様しているのに対して、本格機ではすでに切り替わり済みのアメリカンサイズになっています。


 面白いことに、スペースアイ50M/70Mはその過渡期で、ドローチューブまでは24.5㎜の部材で、天頂ミラー以降を31.7㎜にするという「変則技」でアメリカン対応をしていました。

 スペースアイ600/700は完全に31.7㎜機です。

 (ドローチューブが太い)



<哲学2> 接眼レンズにも手を抜かない。

  天リフさんの記事でもわかりますが、ビクセンの付属アイピースはすべてケルナー型です。

 ラプトルはケルナー20mmとF型8mmが付属。F型はハイゲンスの簡略版で、ハイゲンスでは平凸レンズ2枚に対して、Fではただの凸レンズ2枚です。もっとも安い構成だとわかります。視野も狭いです。

 ミードや、レイメイ藤井の機種は、ハイゲンスとSR(スペシャルラムスデン)を採用、SRは両凸レンズで製作される事例が多いようで、つまりはFと似たようなもの。



 <哲学3> 鏡筒はアリミゾで乗せる。





  中級機ではよく知られたアリミゾ式がスペースアイ600/700では採用されています。スペースアイ50/70では、1/4インチネジ式でした。


 それでも設計思想として「多機種、汎用機種にも移行しやすい」ことを念頭に作られていることがビビビとわかります。

 大一光学とすぐわかる独自ネジ止め式や、フォーク式と異なり、上位機種からきちんと降りてきた仕様であるというこだわりです。、




<哲学4> 赤道儀になる経緯台と微動つき

 スコープテックや、大一光学の「フリーストップ・プラ架台・三脚」はローコストで設計された名品です。

 あのつくり、あの価格で、あの前後バランスがとれた仕掛けが成立しているのは、ある意味ではすごいことです。

 各所で絶賛されている、こどもさんがすぐに「取り回せる」という意味では、こちらも間違いなく逸品でしょう。


 しかし、ビクセンの思考パターンは、入門機から次のステップも視野に入っています。

 スペースアイ50M/70Mでは、一部微動つき架台

 スペースアイ600/700では、全周微動つき、かつ簡易赤道儀機能




がついていて、「天体望遠鏡の三脚はこうなっていて、こうあるべきだ」という教えが詰まっています。

 次のマシンへ移行したときに、予習ができているというしくみですね。


 実売1万円台の入門機で、全周微動と簡易赤道儀(ななめになる)がついた機種はスペースアイ以外にはありません。


 もちろん、中国製なので、ギアの具合が硬いとか、いろいろ細かいところは微妙な部分があるにせよ、それでも「これをやりたいんだ!これを届けたいんだ!」というビクセンの哲学は詰まっています。



<哲学5> 組み立てやすい、使いやすいように工夫はある

  中級機の真似事とはいえ、すべてを詰め込んでいるので、三脚も架台も大きく、扱いづらいものになりがちですが、可能な限り「使いやすい」ことにはビクセンなりに考えられています。


 無策なのではなく、「できるだけ考えて」の結果があのモデルだということです。(もちろん、もっとブラッシュアップされるかもしれません)






 たとえば↑のスコープ台座は、差し込めば止まるようになっていて、これまで当然であった2つのネジ止めは不要です。部材点数は増えているので、コストが上がっているわけですが、こういう部分はなるべく手間をとらせないようにしていることがわかります。

 また、スコープの3点支持は、天リフの記事でもありましたが、1本がバネ式になっています。

  もっと詳しいことを言えば、残り2本のスコープ止めねじは「プラスチック」製で、スコープを痛めにくいようになっているのです。

 (スペースアイ50/70は金属ネジでしたが、スコープのまわりに透明のプラスチック筒が別についていて、傷がつきにくいようになっていました。こういうところに哲学を感じます。設計部門は、ちゃんといろいろ考えて、細かいところにも気をつかっていることがわかります)

 
★余談ながら、松尾のスペースアイは、金属ねじに変えてあります。

 



 ← 左側がオリジナルのプラねじ。

 右側が交換したM4ネジ10ミリ→

 
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 レンズ面はこんな感じ。ふたつきフードを外すとアクセスできる。


 



  こうして全体像を見ると、スペースアイ600/700は、


「中国製であることによって安価にしているが、その中ではできるだけ中級機に近い仕様を、”ここは、こんな機能になっているんだよ!”と説明しようとしているマシン」


 だとわかります。


 それが証拠に実は「モバイルポルタ A50M」という構成が過去にあって、これは

ポルタ系架台・三脚に「スペースアイ600」の鏡筒を載せたもの

です。中級機との合いの子がすでに出ていたというわけ。


 それを考えると、完全に入門機であるはずの「スペースアイ600/700」が実に面白い機種だとわかると思います。









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